内藤秀明
最新記事 by 内藤秀明 (全て見る)
- 開始4分で2点?2人退場? ドラマチックがありあまるチェルシーvsアヤックスの同点劇 - 2019年11月6日
- バイエルンに7失点喫したスパーズが悪循環にハマるまでを解説… - 2019年10月2日
- レスターが示したトッテナム攻略法、ピッチで起こった重要な現象まとめ - 2019年9月24日
チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦
トッテナム対ドルトムントの一戦は
3-0でホームチームが大勝を収めた。
書き手
「プレミアパブ」代表
12年にイングランドでコーチングライセンスを取得し、プレミアに強いライターとしての活動も開始
現在はプレミアパブのサイト運営、イベント企画・司会、コラム執筆などをしつつ複数のサッカーメディアに寄稿もしている
19年1月に初となる著書を上梓
https://t.co/UyVRdgQ4u9— 内藤秀明@パブ本1/30発売! (@nikutohide) January 31, 2019
スパーズの上手かった部分
前提としてスパーズはポゼッション志向のチームではない。基本的にどのチームと対戦する時もカウンターを狙いながら戦う。
ただこの日は3バックにして普段以上に重心を後ろにして戦った。
理由としてはいくつか挙げられるだろう。
ドルトムントには押し込んだ状態でもこじ開けてくる純粋なストライカーがいないことなのかもしれないし
単純に中盤の枚数がけが人続出のためのローテーション的な側面もあったのだろう。
ただ一番の理由は、ホームゲームでアウェイゴールを与えない、というチャンピオンズリーグを勝ち抜く上での鉄則に従った部分も大きかったように思う。
同じ若手でもスキップではなくフォイスを起用していることからも、そこに明確な意図を感じる。もちろんフォイスのほうがまだ経験値があるという判断もあっただろうが。
3バックにして重心を後ろにすると、当然、得点機は遠のく。
ただ0-0や1-0で十分というスタンスだったのだろう。
試合展開的には
実際、前半はルーカスの個の力で惜しいシュートを放った以外はチャンスらしいチャンスはなかった。
だからこそ後半開始直後の47分ソンフンミンのゴールは大きかった。
ルーカスが高い位置でサイドを限定し、フェルトンゲンが相手SBの位置までプレスをかけるとパスミスを誘発。エリクセンが拾い、ルーカスに預けると、ブラジル人アタッカーはシンプルにフェルトンゲンに落とす。
左サイドの高い位置でフェルトンゲンがルックアップした瞬間だった。
ソンフンミンはボックス内のスペースに猛然とスプリント開始。
ベルギー代表DFがキックを放つ頃にはフリーになることに成功していた。ケイン不在の現状では頼みの綱である韓国代表ストライカーは押し込むだけだった。
このゴールの素晴らしかった点は
素晴らしかったのは、チーム全体として意思統一ができていた部分だろう。
前半は全体的に上手くいかない部分も多かった。
相手がボールを持っている際は、前からプレスをはめてショートカウンターを狙ったが、プレスが上手くはまらない。
自身がボールを持った際は、前線に手数をかけられない分、低い位置でボールを繋ぐことでリスクをとり、相手を前のめりにさせて、裏一発を狙うというシンプルな攻め方をしていた。ただフォイスが危ういボールの失い方をするなど、リスクばかりが目立った。
しかしながら後半もその路線を継続させる意思をポチェッティーノ監督はハーフタイムに明確に示したのだろうか。
後半開始直後もチームは迷うことなくハイプレスを敢行し、見事ショートカウンターから得点に繋いだ。
1点リードすれば、スパーズ優位。重心が後ろゆえ、その気になって守ればそいうそう危ういシーンは作られない。
1-0を83分までキープすると追加点もうまれた。サンチェスが高い位置までプレスをかけて相手のミスを誘発。エリクセンが拾ってシンプルにオーリエにはたくと、コートジボワール代表DFは逆サイドのウイングバックがボックス内に突進しているのを見つけて素早く完璧なクロスを供給。フェルトンゲンが押し込んで2点差に開いた。
その後も失点しないことを重きをおいた戦い方をチームで統一して続けた、神様からのご褒美だったのかもしれない。
86分にはエリクセンのCKから途中出場のジョレンテが3点目を決めることにも成功。
クリーンシートも守りきり、3-0の勝利を収めた。
冒頭にも述べたが、スコアレスでもOKでの戦い方をしていたが、結果的にはホームで3-0という想定以上の結果を残した。
ユナイテッドにはこの選択肢はなかったのか
守備的に戦いつつ、自選手の優位性をいかしたいくつかの決められたパターンで得点を決めて勝ち切るというのは、トーナメントで勝ち上がる上で鉄板の戦略である。
スパーズにはできたことが何故ユナイテッドにはできなかったのか。
こういってはなんだが、ユナイテッドが対戦したPSGはドルトムント以上に強豪チームである。
スパーズ以上に用心深く対戦してもよかったはずだが、普段とは大きく変わらず、比較的攻撃的な戦い方を挑んだ。
もちろん選手層的にスールシャール監督にはそこまで選択肢がなかったのも事実だ。
ただ少しうがったものの味方をすれば、この戦略がある種、モウリーニョ的な考え方に通ずる部分があるからこそ、推進しにくい部分があったのかもしれない。
スールシャール監督はモウリーニョ監督の否定で序盤戦の勢いを作った節がある。
それは短期的にもクラブのフィソロフィー的にも正しかったが、ここにきて、守備的な戦い方をとり辛いという弊害を生んでいる可能性がある。
もちろん単純にそこまで準備する余裕が今のユナイテッドにはなかっただけなのかもしれないが、少し不用心だったのも事実だ。
スパーズは大きな一歩を踏み出した
一方のスパーズはポチェッティーノ政権5年目。長期政権だからこそ、原則カウンターサッカーではあるものの、選手の特性をいかしつつ守備的にも攻撃的にも戦える術をチームに落とし込んで、ユナイテッドとは対照的な結果をつかむことに1legでは成功した。
少し前の話になるが、筆者は2016年3月に行われた、ドルトムント対トッテナム(3-0)の一戦で、スパーズがなすすべなく敗戦を喫した試合を現地で観戦した。
ポチェッティーノ監督はその日、中盤の2枚にユース出身のイングランド人コンビ、トム・キャロルとライアン・メイソンを起用したが、彼らは上手く自身の良さを生かすことができなかった。
だからこそ彼らの後継者というか、彼ら以上の成長が期待されている同じくユース出身のイングランド人MFハリー・ウィンクスが躍動し、3-0とこれまた同じスコアで敗戦ではなく勝利を収めた事実に感慨深さを覚えている。
あとはドルトムント戦でみせたような試合巧者っぷりをこの後も継続的に見せることができれば……。
これまでゲームコントロールのミスで欧州の大会を敗れてきたスパーズの成長を意味する。
2legでも賢く戦い、一つでも上を目指して、躍進して欲しいものだ。
(プレミア好きの欲をさらに言うなら、ユナイテッドが筆者を驚かせるような戦いを2legで見せて、両チーム共に勝ち進むことができれば、もっと嬉しいのだが)