内藤秀明
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理不尽
[名・形動]道理をつくさないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。「理不尽な要求」「理不尽な扱い」
[派生]りふじんさ[名] (コトバンクより)
書き手
<プロフィール>
1990年生まれ。大阪府出身。新卒でリクルートに入社。2年間勤務後に独立して「プレミアリーグパブ」代表に。
学生時代に1年イギリスに留学。コーチングライセンスを取得し、プレミアに強いサッカーライターとしての活動も開始。ほぼ毎シーズン渡英してプレミアを現地取材している
— 内藤秀明 (@nikutohide) June 27, 2018
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いきなり個人的な話で恐縮だが、僕は理不尽な強さに憧れがちである。
例えば、漫画・アニメなどでも、
「実はすごい奴なんだけど、何らかの理由でくすぶっているけど、いざという時には大活躍」
みたいな、ありがちな強い主人公を好きになりがちだ。
BLUE GIANT?
いいよね、大の圧倒的な熱量。
コードギアス?
ルルーシュかっこいいよね。ちょっと厨二くさいけど。
まあ、才能であったり、努力量であったり、なんでもいいんだけど、
外面でも内面でも、道理では考えられぬくらいの圧倒的な強さというのにも憧れる。
マンチェスター・ユナイテッドが好きなのもそうなのだろう。
どれだけ圧倒されても、アディッショナルタイムにセットプレーに1点決めて勝つ。
ファーギータイムなんてものは、憧れの象徴のうちの一つだ。
話は逸れるが、だからこそ、勝てないユナイテッドには腹が立つし、
どんな内容が悪かろうとも、ユベントス戦の逆転勝利なんて見せつけられたら、
心のどこかでモウリーニョを擁護したい気持ちが湧いてくる。
あんなセットプレー2発での勝利なんて、ユベントスからすれば理不尽極まりない。
どう考えてもユベントスが勝つ内容だった。
それでも勝ったのはマンチェスター・ユナイテッドなのだ。
再現性があるのかはわからない。
正しいのかはわからない。
でも、好きなものは好きなのだ。
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なぜそんなに理不尽な強さが好きなのかは、正直わからない。
高校生の頃は、勉強に興味がわかず、
何故しなければいけないのかもわからないのにただただ怒られまくっている…
そんな環境に鬱屈していたからかもしれない。
あるいは、優等生でもない、サッカー部ではレギュラーでもない
何も成し遂げることができていない自分自身に苛立っていたからなのかもしれない。
いずれにしても、理屈とか、文脈とか、全てをぶち壊したかった。
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そんな思春期真っただ中だった高校生の頃に僕はディディエ・ドログバに出会った。
圧倒的だった。
当時はまだサッカーの知識はなかった。
ただ、とにかく特異な存在であることは伝わってきた。
普通は五分五分なボールでも確実に足元でおさめる、あるいは空中戦で競り勝ち、味方に優位な場所に落とす。
なにより得点を決める、決める、決める。
ボックス内では確実に決めるし、ボックス外でも振り向きざまにミドルを放つことも。
タッチライン際からクロス気味のループでネットを揺らしたかと思えば、セットプレーから直接決める。
なんでもないクロスですらねじこむ。
特にアーセナル戦でのドログバは圧巻だった。
友人のアーセナルサポーターが可哀そうでならなかった。
また決勝戦でも得点を量産した。
決勝戦キラーでもあった。
本当に怖い存在だった。
彼を前にすれば、試合の流れなんて関係なかった。
とにかく、圧倒的で、怖い存在だった。
ふざけんなよと、何度も思った。
ドログバなら仕方がないと、何度も自分をなだめた。
圧倒的な存在、理不尽な存在の代名詞だった。
敵選手の中で、最も尊敬していた。
ドログバとは理不尽な存在であり。
理不尽とはドログバだった。
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そんなドログバがとうとう引退する。日本にも来るという。
これは2000年代後半からプレミアにハマった僕としては、見に行かずにはいられない。
そういえば、今のプレミアに、ドログバほどの存在感を放つスコアラーはいるのだろうか。
アザールも左サイドで仕掛けるとそういう雰囲気を放つ。
デブライネもカウンターの場面ではそうだ。
ただボックス内で圧倒的な怖さを放つドログバのような存在は昨今いない。
ルカクは成長した。
ただ今の決定力ではドログバの怖さには程遠い。
ラカゼットはどうだ。
シュートセンスは一級品だがドログバほどの強引さはない。
昔がよかったなんて言わない。
むしろフットボールは日々進化しているはず。
ドログバを越える存在がいつ出てきてもおかしくないと信じたい。
あんな理不尽の塊のような存在を僕はもっとプレミアリーグで見たいのだ。
理不尽こそがサッカーの魅力で難しさだ。
理不尽な個の力こそがプレミアの難しさであり魅力でもあるのだから。