大学生なのに英5部などでスカウト!留学生が明かすイングランド”サッカー学”の最新事情

       
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内藤秀明

内藤秀明

プレミアリーグのファンサイト「プレミアパブ」の代表、マンチェスターユナイテッド・サポーターズクラブジャパン会長。 大学時代に1年間イギリスに留学し、FAコーチングライセンスを取得。現在はプレミアパブの代表としてトークイベントやフットサルイベントを主催しつつ、ライターとしても複数のメディアに寄稿している。 2019年1月に初の著書『ようこそ!プレミアパブ』上梓。

サウサンプトンのソレント大学に在籍しながら、

指導者の経験を積みつつ、ノンリーグ(下部リーグ)でスカウトをしている日本人の若者がいる。

その名も、塚本修太さんだ。

書き手

塚本修太さんとは

 

1997年生まれの21歳は、どのような野心をもって渡英し、何を学んでいるのか。

 

今回はロングインタビューをお送りする。

 

イギリス学ぶ“サッカー学”とは

本日はお忙しい中、ありがとうね。

イギリス帰国、前日なのに……。

帰ったら荷造りです(笑)

とりあえず簡単な自己紹介をしてもらってもいいかな?

イギリスのサウサンプトンにあるソレント大学でサッカー学を専攻しています。

塚本修太です。

サッカー学なんて学科があるんだ(笑)

海外っぽいですよね(笑)

実際にはどういったことを学ぶの?

ざっくばらんにいうと、いろいろ分野の学問をサッカーに絡めて網羅的に学びます。

1年目はサッカーコーチング学、分析、サッカーとフィットネス、サッカーと社会学、サッカーを通しての地域貢献、などを学びました。

できれば、一つずつ詳しく聞きたいんだけど……

時間がなくなりそうなので、一番力をいれたことについて聞いてもいいかな?

コーチング学ですかね。

一つ一つの技術(パスやターンに始まりポゼッションやダイレクトサッカー)を細かく学んで、それをどうトレーニングするかを学びます。

なるほど!

一番学びになった、もしくは、驚いたことって何かある?

漠然としていたことが、しっかり言語化できたことが一番の学びでした。

目新しいことよりは、言われてみれば「確かに」と思うことを言語化して頭の中で整理できた気がしますね。

言語化か……、大切だもんね……!

「日本とは違うなー」ってどんなときに感じます?

イングランドに来て1番感じたのは、

「こっちのコーチはとにかく褒めるなー」と。

選手の乗せ方が上手。

ただ褒めるのではなく、何が良かったか、タイミング、言い回しなどが豊富な印象ですね。

なるほど!

ちなみに、これから2年生になるんでしたっけ?

今年の9月から2年目が始まるんですけど、サッカーコーチングの座学と実技は変わらず、それに加えてサッカーと心理学が必修になります。

それと、もう1つオプションでサッカーと監督学、ユース育成学、栄養学の3つのうちから1つ選択必修なんです。

2年生まではサッカー産業とは、一体どういったものが組み合わさって成立しているかを学んでいき、最終学年で自分が学びたいことを絞り、深いところまで掘り下げて勉強します。

なるほど、面白そうだね。

いいなあ(笑)

なぜイギリス留学なのか?

そもそも、なんでイギリスでサッカーを学ぼうと思ったの?

サッカーを学問として勉強してみたくて。

プロサッカー選手としての経験がない分、それを補うくらいの理論に基づく知識を身につけないとコーチをしていても説得力がないと思いました。

それで、日本では学問として勉強できる環境がないので、海外に留学したいなと思いました。

それはいつごろ決心したのかな?

高校2年生のごろですね。

そうなんだ!

なんでイギリスを選んだの?

正直にいうと、語学的なハードルが低いからですね。

スペインやドイツで勉強することも考えたんですけど、まったくスペイン語もドイツ語もわからない。

それだと大切なことを10言われて1か2しか理解できない。紛いなりにも小中高と英語は勉強していたのでイギリスなら10のうち6、7くらいは理解できるんじゃないかと思い、イギリスにしました。

まあ、実際、最初のころは3くらいしか理解できませんでしたけど(笑)

あと単純にプレミアリーグが好きだったので。

「イギリス行ったら毎週スタジアムで見れる」

っていう言う安易な考えもありました(笑)

わかる! わかる!

俺もそんな理由で1年間イギリス留学したしね!

プレミアで好きなチームはあるの?

最初はマンチェスター・ユナイテッドが好きだったんですけど、今はやっぱりスタジアムが近いので、サウサンプトンに愛着が湧いてきてます(笑)

住んでいる町のチームは応援したくなるよね~~~!

イギリスの中でもソレント大学を選んだ理由はなんでなの?

リバプールジョンムーア大学かソレント大学で迷ったんですけど、ソレント大学にはファウンデーション

(編集部注:海外からの学生は、大学入学の前に1年間必要な知識を勉強しないといけない)

でもサッカーを学べるコースがあったのでソレントに決めました。

なるほど、それはいいな!

発想も求められる 大学で勉強する課題

大学の勉強はどう? 難しい?

サッカーってめちゃめちゃ難しいって思います。

学べば学ぶほど新しく学びたいことが増えるし、

「サッカーってマジで全然わからない」って、

週1のペースで落ち込みます(笑)

どんなことで落ち込むものなの?

プレミア(特に今はシティ)の試合を見て、どんなトレーニングメソッドなら、この戦術をチームに落とし込めるか考えます。

他にも5部のチームの試合を見て、どうしたらパフォーマンスを上げるトレーニングを組めるか考えてると、

「俺、全然アイデアないじゃん」

と思って落ち込む(笑)

無力さに落ち込むのはあるよね……

セインツのアカデミーの練習見学で受けた衝撃とは

少し話が逸れるけど、サウサンプトンにある大学なら、セインツの練習を見たりしないの?

トップチームではないですけど、この前サウサンプトンFCのアカデミーの練習を見学させてもらいました。すごかったです。

おーーー!

何がすごかった?

練習自体は何も目新しいことはやってなかったんです。ただコーチの介入の仕方が絶妙でした。

内藤さん、イングランドで使われてる5つのコーチングスタイルって覚えてます?

あ~~~、あれでしょ?

Command (命令型)

Q & A (質問形式)

Observation and feedback  (観察と意見)

Guided discovery (誘導発見)

Trial and error (試行錯誤)

なんですけど……。

あ~~~、覚えてる覚えてる。

絶対うそでしょ!(笑)

いやいや、覚えているって!

ほんと!(笑)

本当ですか?(笑)

まあ、それはそれとして、サウサンプトンのアカデミーのコーチは、コーチングスタイルの使い分けがうまいですね。

具体的には、どんなシーンで感じたの?

練習の内容によってもそうですけど、選手によってもスタイルを変えていたのを見て感じました。

具体的に言うと絶対的な技術練習では命令型、判断が加わった練習になるにつれて質問型のワードをチョイスしていましたね。

選手ごとに、いろいろできる選手には質問形式、苦戦している選手には情報を与える命令型を使っていました。

それとプラスしてVARKスタイルも考慮した伝え方をしていましたね。

VARKスタイルって?

人はそれぞれ適した学習スタイルがあるという考え方で……

Visual (視覚)

Auditory (聴覚)

Reading/Writing (読字)

Kinesthetic (運動感覚)

の頭文字をとってVARKスタイルです。

ですが、裏付ける科学的根拠はあまりなく、これら全てを含んだ指導が、一番新しい知識を吸収する近道だと考えられています。

Reading/Writing(読字)は練習中に組み込むのは難しいので、そのほかの3つをできるだけ選手に伝えるときに組み込むのが大事。

コーチングってある程度、即興性が必要になるのに、

「そこまで考えてやってるのか」

って驚きました。

アカデミーのコーチと話す機会があって、コーチングをしているとき、何を大事にしているかと聞いたら

「戦術などの知識を知っていることも大事だけど、一番大事にしていることは環境を作ること。

選手たちがよりたくさんのことを持ち帰れる環境を作ることだ」

と言っていたのが印象的でした。

環境かあ。

環境って言っても、練習メニューとか、いろんな要素があると思うけど、何が重要なんだろう。

簡単に言うとたくさん失敗できて、たくさん新しいことに挑戦できる環境ですね。

なるほど!

あと、笑っちゃったことがあって。

え、なに、なに??

サウサンプトンのアカデミーの人たちが、

「俺たちの仕事はリバプールに選手を送ることだ」

って冗談で言ってました。

マーーーーージか!

それは言っちゃだめでしょ!笑

まあ、ブリティッシュジョークですかね。

さすが、イギリス人だ……。

サウサンプトン出身の、ギャレス・ベイルやルーク・ショーの話は聞いたりした?

聞きました!

アカデミーの頃、ベイルを放出するかしないかの会議を、アカデミーのコーチ3人でしたらしいのですが、2対1で意見が分かれたそうです。

スピードに乗った時のボールの扱いは当時から良かったし、練習の虫でかなりの努力家らしいんですが

そこまで絶対的な存在ではなかったらしく

「フィジカルが弱いのでこの先通用しない」

という理由で揉めたそうです。

最終的には残留しましたが、もしその時に放出していれば、今頃ベイルはいなかったかもしれませんね。

マジか……今ではフィジカル弱いイメージ一切ないけどな……。

ノンリーグでのスカウトとは

大学以外で何か活動はしてるの?

昨シーズンは地元のグラスルーツのチームでコーチをしていました。

下は幼稚園児から上はU14までコーチをさせてもらい、それとは別にプロジェクトと題したサッカーをただ楽しみたい子どもたち向けのスクールも担当しました。

一番、学びとして大きかったのは何かな?

いつでも選手が中心ということですね。

必要以上に練習メニューを難しくしたり、何回も練習を止めたり、たしかに教えた気にはなるかもしれないけれど、果たしてそれは誰のための練習なのか、と感じさせられました。

選手はサッカーをしたくて来ているのだからサッカーをしようと。

なるほど!

他には何かしてるの?

それ以外でいうと、イギリス9部のチームのパフォーマンスアナリストですね。練習と試合に帯同してチームのどこが改善できるかの分析、それを踏まえての練習メニューの作成などをします。

あと、U-18のチームでコーチと、あとはノンリーグジェムというスカウト団体の一人として活動します。

そのスカウト団体は実際にどういう活動をするの?

週に一回は必ずノンリーグ(イングランド5部以下)の試合に行き、16歳から19歳の若手もしくは23歳以下の選手のスカウティングレポートを提出する。その中からチャンピオンシップまたはプレミアリーグに輩出できる選手を発掘するのが目的です。昨シーズンこの団体がスカウトした選手がMillwall FCと契約したので、頑張って欲しいです。

スカウティングレポートってどんなことを?


選手の身体的特徴、プレースタイル、その試合の中でのプレーを客観的な事実として書きます。

面白いな~~。

それって簡単にその団体に入れるものなの?

入る前に一人の選手を分析するので、そのレポート次第だと思います。

すごい!

ならそのレポートの内容がよかったんだ!

ちなみにノンリーグは見ていてどう?

すごく面白いです! 是非見に来て欲しいです!

伝統的なダイレクトなサッカー、センターバックとストライカーの競り合い、サイドでの一対一は見ていてすごい迫力です。

サポーターの方たちも地元の人たちが多くてチームへの愛がすごい。あとめっちゃチケットが安いです(笑)

確かに安いし、あの雰囲気は本当にいいよね!

困難な道を選んだ理由 壮大な将来の目標

さて最後に、将来的にはしたいこととかあるの?

一番の目標はプレミアリーグのチームで監督になりたいです。

それがどれだけ厳しいかは自分なりに分かってるつもりなんですけど、やれるところまでやってみたいです!

プレミアリーグの監督!!

大きな夢だ!!!

ただ「監督になりたい」は誰でも言えるんで、しっかりその目標から逆算して、これから何をしないといけないのか、常に考えるようにしています。

今シーズンであれば9部リーグ優勝、自分がスカウトした選手が上のリーグのチームと契約など、個人として色々な目標を立てています。

急にプレミアのチームでは働けないと思うので、今の自分が置かれた場所で最大限できることをやる、目の前の選手と一緒に成長できるように1日1日必死に努力していきます。

今シーズンも忙しくなりそうだね。

頑張って下さい!

はい、頑張ります!

定期的にプレミアリーグパブの読者へ、現地での体験をたくさん伝えてくださいね!

はい、そちらも頑張ります!(笑)

本日はありがとうございました。

ありがとうございました!



【了】

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