10番を背負うことが決まった今だからこそ、メスト・エジルの話をしよう

先日、ジャック・ウィルシャーの移籍に伴って空き番となる

「10番」をメスト・エジルが18/19シーズンから着用するということが発表された。

ウィルシャーがアーセナルを去るのを許したことに関しては色々な意見はあるだろうが、こうなってしまった以上、メスト・エジルがアーセナルの名実ともに”10番”の座に収まることに異論がある人は少ないだろう。

だが、少しオンライン上を見渡してみれば、そこはメスト・エジルへの批判であふれかえっている。ともすると、彼に対する賞賛よりもその数は多いくらいだ。今回のW杯でのドイツ代表の敗退を受けて、主にプレミアリーグファンがその中心だった批判に新たにドイツ方面からのものも加わることになってしまった。

ここでは、それらに納得のいかない一ファンの視点から、エジルを擁護するとともに彼の魅力と素晴らしさをただひたすらに語ってみたいと思う。

1) その能力に疑いの余地はない

もちろん、エジルに向けられる大体の批判は彼のサッカー選手としての素質を疑うものではないのだが、それでも彼の能力が素晴らしく、現状世界トップクラスの選手であることに疑いの余地はないことを念のため強調しておきたい。

これはアーセナルファンだけが言っているわけではなく、W杯優勝を果たしたレーブ、CL優勝経験もあるモウリーニョ、そしてアーセン・ベンゲルといった錚々たる監督がチームの司令塔として重用し、賞賛していることからもそれは明らかだ。恐らくウナイ・エメリも近々この列に加わることだろう。

視野の広さとパスセンスは当代随一で、スピードやスタミナといった肉体的能力も平均より高いレベルで備えている。そして、高い戦術理解力を誇り、チームとしてどこにボールを運ぶべきか、自分がどこでパスを受けるべきか、と言ったことを即座に把握することができる。そのおかげで、チームの不調時には3列目に降りてくることが多いのだがその際にも、本職のCMFと遜色ないレベルでビルドアップに貢献することが出来る。

2) 美しさというクオリティ

以上のことはアーセナルファン、あるいは普段プレミアリーグの試合を観られている方であれば説明する必要もないだろうと思う。だが、付け加えて強調したいのは、彼のプレイの”美しさ”だ。

もちろんサッカーにおいて美しさなどというものは結果につながらなければ大した意味がないのかもしれないし、そもそも美しさというのは主観的なもので、何らかの形で計れるものではないのかもしれない。

だが、それを承知で敢えて言わせてもらえば、現在のサッカー界で、エジルほど美しいという言葉が似あうプレイスタイルを持つ選手はいないと思う。

メッシやロナウド、あるいは同じプレイメイカーというカテゴリーの選手であればケビン・デブライネの方が選手として優れているという意見もあるかもしれないが、筆者の個人的な感覚では、彼らのプレイを見ているときに第一に心に浮かぶ単語はどちらかといえば、”怪物”であったり”凄まじい”といったものだ。あるいは、流行に乗って”半端ない”と言っても構わない。

だが、このパスに象徴されるように、エジルのプレイは非常に”美しい”と思う。かつてアーセン・ベンゲル監督がエジルを評して『サッカーを見るのが好きな人は誰でもエジルを好きなはずだよ』といったように、サッカーの美しさとエジルのプレイには密接な関連性があるように思える。

個人的な感じ方の問題かとも思うが、それでもエジルに関して同じように感じていただける方が一定数いるものと信じている。

3) イメージ先行の批判は不適当

代表、クラブを問わず、エジルに向けられる主な批判は、怠けている、守備をしない、ビッグゲームで勝負弱い、気迫が足りない、などといったものだ。

まず、怠けている、という批判が単なる誤認であり、全く的を得たものではないのは明白だ。アーセナルの試合ではチーム一の走行距離を記録することがしばしばあるし、エジルはカウンター時にもよく走る。彼がいてほしい時に上がれておらずチャンスがつぶれてしまった、などという場面はほとんど見たことがない。

守備をしない、に関してはある程度真実を含んではいる。確かにエジルはゴールライン際まで戻って守備をしたりすることは少ないし、タックルは得意ではなく、また空中戦に関してはあまり積極的ではない。

だが、エジルはガットゥーゾやエンゴロ・カンテではないのだ。そもそもエジルに猟犬のようにボールを追い回し、奪取することを期待するのは奇妙ではないだろうか?

そして、忘れてはならないのは、たいていの場合において、エジルは攻撃時にチーム一脅威となる選手であることが多い、ということだ。そして、エジル自身もそれを認識している。

この場合チームにとって最も効率が良いのは、たいして守備が得意ではないエジルにコーナーキック時の守備を強いることよりも、彼に味方のカウンター攻撃に備えさせることではないだろうか?そもそもエジルがプレミアリーグの屈強なFW・CB陣と競りあったところでそこまで違いを生み出せるとは思えない。エジルが攻撃にその労力の大部分を注ごうとするのはいたって合理的な判断なのだ。

また、ビッグゲームでの出来に関しては、エジル自身のパフォーマンスというよりも、チーム自体の要因によるものの方が大きいだろう。エジル自身が口にしていたように、ボール奪取を得意とする選手ではない以上、チームがボールを持って攻撃するチャンスが訪れない限りエジルに出来ることは限られている。

そして、彼はストライカーではなく、プレイメイカーである以上、仮に絶好調で、数少ないチャンスを活かして良いパスをどれだけ供給したところで、ストライカーが決めてくれなければ、エジルも出来が悪かったかのような扱いを受けることになるのだ。

4) 氷のような冷静さ

そして、最後の『気迫』についての批判に関してだが、そもそもそんなものは生まれつきの素質によるものが大きく、そういった性格に生まれついていない以上、一体どうしろというのだ、という気もするが、一つだけ指摘したいのは、熱い心というのは必ずしもスポーツにおいてプラスには作用しないということである。

サポーターが情熱的にチームを鼓舞するような選手を好む気持ちは理解できるが、そういった選手たちはイエローカードやレッドカードをもらうことも多い。また、そういった姿勢が視界を曇らせたり、チームにとっての最善を見失わせたりし、気合いの空回りという結果を招くことも少なくない。

それとは対照的に、エジルは常に冷静沈着だ。苛立ちを見せることはあっても、自分のタスクは見失わない。チームのために必要とされるプレイをどんな時も淡々とこなしてみせる。もちろん、それでも結果的にチームの勝利に結びつかないこともあるだろうが、熱くチームを奮い立たせる選手と淡々と仕事をこなす選手は単なるタイプの違いであり、優劣の問題ではないはずだ。

5) スーパースターとしての素晴らしい姿勢

最後に付け加えておきたいのは、メスト・エジルは非常に大きな注目を集める現代のスーパースターたるサッカー選手として、模範的なロールモデルだということだ。

ピッチ上でスポーツマンシップ精神にもとる、あるいは暴力的な振る舞いを見せることがないのは当然として、エジルはピッチ外でも子供たちの憧れに相応しい振る舞いを見せる。

そして、自分からそれに関して話すことはあまりないが、エジルは子供に関するチャリティに、定期的に非常に多大な貢献をしている。機会さえあればいつも闘病中の子供たちをスタジアムに招き、一緒に写真を撮る。毎年の巨額の寄付はもちろん、自ら主導してチャリティ団体や企画の立ち上げにも関わっている。

もちろん、だからと言ってこれがサッカー選手としてのクオリティと何か関係があると言いたいわけではないが、少なくとも、やる気がない、であったり、クラブや国のために本気で尽くしていない、などといったエジルの人間性までをも疑うような言葉はあまりにアンフェアだと言わざるを得ない。

 

(この記事は、アーセナル・コラムに掲載されたものです)



【了】

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山中 拓磨

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