山中 拓磨
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今季のマンチェスター・シティはあまりにも圧倒的で、優勝があまりに簡単に達成されたため、その裏にあった革新的なスタイルについて、ここまで正当に評価されてきたとは言い難い。
ペップ・グアルディオラのアプローチは、いつも通り技術面とポゼッションに重点を置きつつも、過去の戦術と、繊細なポジションの管理を柔軟に組み合わせ、かつて英国では見られたことのないほどの完成度を達成した。
それらのペップの成功のレシピを六つに分類し、分析していこう。
(この記事は、ESPNの記事を翻訳したものです)
1. 圧倒的なポゼッション
ハイプレス、あるいはカウンター志向のチームが増えていた近年のサッカー界で、再びペップのチームはポゼッションの優位性を立証した。
例を挙げれば、2015/16シーズンのレスターは平均ボール保持率は44%だったがリーグ優勝を果たし、深く引いた守備がトップレベルでも通用することを証明した。最近は、グアルディオラのバルセロナ全盛期と比べて、ボール保持率という数字が重要視されなくなってきていた。
しかし、今季のシティの数字はすさまじい。彼らは平均して66.4%のボール保持率を記録し、これは二位のアーセナルとトッテナム(58.7%)を大きく引き離している。パス成功率も89%とこれも二位のアーセナル(84.4%)に大きく水をあけている。
これらはプレミアリーグが始まって以来史上最高の数字であり、グアルディオラがボール支配の優秀性への信念を全く曲げていないことを示している。
2. エデルソンのロングボール
ボール保持時におけるシティの専売特許は、GKからのボール配給だった。グアルディオラは常に、GKも足元の技術に優れていなくてはならないと主張してきたが、シュートストップ技術に加えて、今季のエデルソンは昨季のブラボとは全くタイプが異なる。
ブラボは典型的なスイーパーGKであり、ボックス外でプレイし、サイドにパスを供給できる選手だった。エデルソンにもこれは可能だが、重要な違いは、それに加えて彼は非常に長く正確なゴールキックを蹴ることが出来るということだ。
これにより、シティはゴールキックでは選手はオフサイドにならないというルールを利用し、意図的にディフェンスラインの裏にスリートップがポジションをとることが出来る。
これは、彼らがエデルソンならば70m先まで矢のようにボールを届けてくれると信頼しているということだ。これは様々な点で非常に有効だった。敵チームを縦に引き延ばす、プレス回避などがその主たる目的だが、時として直接の得点機につながることすらあった。
3. 中へ入るサイドバック
サイドバックに中盤に入らせる、というのはグアルディオラの昔からのやり方であり、バイエルンでも、シティでも一年目からこのやり方を好んできた。昨夏ウォーカーとメンディを獲得したことで、サイドをオーバーラップするタイプのサイドバックに戻るのかと思われたが、メンディの怪我の影響もあり、結局ファビアン・デルフをコンバートして用いることとなった。
だが、これは単にデルフが中盤のポジションに流れてくる、というだけの単純な話ではない。今シーズンの戦術的ハイライトともいえる11月のチェルシー戦で、デルフは中で中盤の枚数を厚くし、ウォーカーはその隣にポジションをとるか、あるいは状況に応じて3バックの一員となった。
つまり、これにより、3-2あるいは2-3というフォーメーションで中央を固め、カウンターに備えることが可能となるのだ。恐らくこの形がバルセロナを去った以降のペップが最も重点的に練習してきたコンセプトだろう。
4. 正統派のウイング
単純に言えば、これまでのグアルディオラのウイングは三種類に分けることが出来る。バルセロナではアンリやペドロ、ビジャといった、得点機に走り込むストライカー型の選手を、そしてバイエルンではリベリーやロッベンといった中にカットインするタイプのウイングを用いてきた。
だが、シティでは、利き足と同じサイドでプレイする、より伝統的なウイングを起用している。
サネは左利きで、左サイドでプレイし、右サイドのスターリングは右利きだ。両者がサイドを交代することもあるが、グアルディオラは今シーズン、彼らにサイドバックの外側にスタート位置をとるよう求め、横幅をとって相手守備を引き延ばす役割を担わせてきた。
また、二人とも得点源としても機能し、サネの場合はゴールへ直接向かっていくプレイから、またスターリングの場合は点取り屋のように、ボックス内の得点機に現れることによって得点を重ねた。
この昔ながらのウイングの起用法は、完全に最近のプレミアリーグ優勝チームのトレンドの真逆をいっており、94/95シーズンに優勝したブラックバーンのチームを少しばかり思い起こさせる。
5. デブライネとダビド・シルバ
デブライネとダビド・シルバが素晴らしい選手であるということは、誰もがわかっていたことだ。だが、グアルディオラ以外に、伝統的ななセントラルMFとして、中盤三枚の中に二人とも同時に組み込もう、と考えた監督はいなかった。
デブライネ自身は、彼らの役割のことを、”フリーボランチ”と表現している。
両者とも、トップ下、あるいは中に入り込む許可を与えられたウイングとしてプレイするのにより慣れていたはずだが、このプランは全くもって大成功で、二人ともが相手のライン間の隙をつき続けた。
サネとスターリングがサイドに張り続けるおかげでこの二人には十分なスペースが与えられ、また、ウォーカーとデルフが低い位置に留まり続け、中盤に入ってきて守備を担当してくれる多かったおかげで、守備面でも十分な保護が与えられた。
デブライネはサネへの目が眩むようなパスや、凄まじいクロスを供給し、一方シルバはより繊細に機敏なパスワークと足技でチームを整えた。この二つが合わさり、彼らをとめられるものは誰もいなかった。
6. “一本多い”ラストパス
今季のシティは、我々が想定するよりも一本余分にパスを通すと固く誓っているようだった。
誰かに良い得点機が訪れても、より良いチャンスがあるチームメイトへのパスを選択する、ということが非常に頻繁に起きていた。例えば、チームメイトのおかげでスターリングが決めたただゴールに流し込むだけのゴール数は非常に多い。
これは、シティが素早いコンビネーションプレーを可能にするために、大人数を敵のボックス内に送り込むことに成功していた証拠だ。リーグのアシストランキングは上から四人がシティの選手であり、彼ら全員が10アシスト以上を記録している。(デブライネ: 15, サネ: 12, シルバとスターリング: 11)
統計のおかげで、”得点機の質”という概念が発達したおかげでチームがシュートを打つ位置に拘るようになってきたのは非常に興味深い。特に、今季のシティが得点を挙げたポジションは非常に示唆に富んでいる。
ロングボールからのゴールは何本かあるものの(大体はデブライネからのボールだ)、PKスポットより外側のペナルティエリアから決まったゴールはほとんどない。ほぼすべてのゴールが、ゴールエリア内、あるいはその外でもPKスポットよりは内側の位置から決まっている。
もちろん、至近距離からシュートを打てば入りやすい、というのは当然の考えではあるが、そのための道筋を今季のシティほど完璧に整備したチームはこれまで存在しなかった。