ライアン・メイソンと僕

怪我の影響でライアン・メイソンが26歳で引退という悲しいニュースを

僕はTwitterのタイムライン上で知った。

僕にとってのメイソンは特別な選手だった。



出会い

コーチングライセンスを取得するためにイギリスに長期留学していた頃、

僕はハックニーというエリアに住んでいた。

暴動だとか、ギャングだとか。

サッカーとは関係ないところで、有名なエリアだけど、

プレミアリーグ的に言い直すのであれば、

ホワイトハートレーンの近くに住んでいた。と言えばいいだろうか。

だからスパーズサポではないが、トップチームの試合はもちろん

ちょくちょくアンダーカテゴリーの試合には行っていた。

その後、何度かイギリスに行くときも、たまたま予定が合うなど偶然もあり、

何度かホワイトハートレーンに訪れていた。

U21の試合は、毎回ではないものの、ホワイトハートレーンで開催されることもある。

トップチームではありえないが、ガラガラのホワイトハートレーンで、一けた台の前列に当日券で座れるのだ。

2014年の秋頃に行ったときも、そうだった。

冬だとしても、

満席ゆえに熱量をひしひしと感じるスタジアムも好きだが、

真昼間に行われる、生ぬるい、

どこか気が抜け炭酸のようなスタジアムも嫌いじゃなかった。

スタメン表がメディアだけでなく、一般客にも配られる。ありがたい気配りだ。

正直、ホームもアウェイも選手名はあまりわからない。

しかも、その日はロンドンでは貴重な青空だった。

ピッチではなく、青空を見上げて写真をとるくらいに、リラックスして試合に臨んでいた。

サッカー的な内容に、期待していったわけではなかった。

でも、結果的には収穫があった。

ライアン・メイソン、22歳がピッチ上で躍動していた。

正確なボールタッチと、大柄な選手に恐れず突っ込む勇気と球際の強さ。

そのアンバランスさが僕には魅力的に映った。

トム・キャロル以外にもいい中盤が育っているじゃないかと、心を躍らせたものだ。

成長と挫折

その2週間後、

アンダーカテゴリで見かけた選手は、

ノースロンドンダービーというビッグマッチでプレミアデビューを果たしていた。

しかも、レギュラーだ。

世間に認知されるより少し早く、日本人の僕が有望株を知っていることに優越感を覚えた。

「どうだ、俺は、あいつをアンダーの試合に出ていた頃から知ってるんだぞ(ギリギリだけど)」

「しかも、現地でチェックしたんだ(1回だけだけど)」

残念ながら、メイソンの奮闘むなしく、スパーズは勝利をつかめなかったが、

画面の前から、小柄なイングランド人に、スタジアムにいる気分で僕は拍手を送った。

よく戦ったぞ、と。

でも、もしかすると、メイソンのピークはこのノースロンドンダービーだったのかもしれない。

その後のメイソンが良いパフォーマンスを披露した試合はそう多くなかった。

もちろん持ち前の運動量と、テクニックをいかして、Box to Box型のMFとしてファイトしたし、

活躍した試合もあった。

ただ、体が大きくないこともあり、守備では脆さを露呈することが多く、

攻撃でもゴール前でのクオリティに欠いた。

ボックス付近でパスの精度も、得点能力も少し物足りなかったのだ。

個人的に印象的だったのは、2016年3月に行われた、ドルトムント対トッテナムの一戦だ。

この試合も、僕は現地で見ていた。

スパーズが何もできないまま、0-3で大敗する姿を。

その日、トム・キャロルとライアン・メイソンがスタメンで出場していた。

そして、悲しくなるくらい黄色いユニフォームの選手たちに蹂躙されていた。

現地のメディアは書き立てた。

あの中盤のコンビは2軍だ。主力の温存だと。

僕は思わず、僕の中の大切な何かが否定されたような気がして、彼らを擁護する記事も書いた。

勝負師ポチェッティーノは賭けに出て、そして思いっきり裏目に出た。その狙いとは。

今思うと、うすうすは気づいていたのかもしれない。

現地メディアの言う通りだと。

チームでのメイソンの序列は落ちている。

代表にも選ばれたが、出場は1試合のみ。

僕の期待と現実は乖離していたのかもしれない。

そして、24歳という中堅の年齢に差し掛かりつつあるテクニシャンは、

翌シーズン、ハルシティへと活躍の場を移した。

そして

試合を見る回数は減ったけど、それでも、メイソンのことを変わらず応援していた。

メイソンが2017年に大けがを負ったことも知っていたしショックだった。

ただその頃はまだ25歳という若さもあり、またピッチに戻ってきて、ファイトしてくれる姿を見せてくれるものだと信じていた。

そして、このツイートを見た。知った。一人の選手が引退したことを。輝かしい舞台に二度と戻ってこないことを。


おいおい、ウソだろ。やめてくれよ。

俺はスパーズサポじゃない。でも、お前のことは応援していたんだよ。俺なりにね。

ショックだった。彼の引退で、僕も何か大きなものを失ったような喪失感を覚えた。

誰も悪くない。

ぶつかったチェルシーの彼も故意ではなかった。

でも、こういう悲しいことが起こる。

フットボールには悲しく理不尽な一面があることを改めて痛感した。

一番悔しいのは本人だろう。

遠い日本に住んでいる僕に、何ができるわけでもない。

それでもメイソンという最高の選手がいたことを、書くことはできる。

感情にまかせて書き連ねることはできる。

今までありがとう。

彼の今後の人生を僕も応援し続けます。

興奮を、喜びを、悔しさを、

いろんな感情をくれて、本当にありがとう。



【了】



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内藤秀明

内藤秀明

1990年生まれ。大阪府出身。プレミアリーグ専門のサッカーライター。 1年間のイギリス留学中に、FAコーチングライセンスを取得。毎シーズン必ず渡英してプレミアを現地取材している。 ライターとして複数メディアに寄稿しつつ、プレミアサポ向けのイベントを開催。サッカー漫画が大好き。