山中 拓磨
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非常に突然の話だったが、アーセナルがドルトムントのストライカー、
ピエール-エメリク・オバメヤンを獲得した。
見間違いかと思ったそこのあなた、見間違えではない、オバメヤンだ。
(本気記事は Arseblogを翻訳・編集しています。)
ドイツでの実績
Embed from Getty Imagesドイツに2013年に移籍して以来、ドルトムントで、212試合で141ゴールを記録。
そし驚くべきことに、彼がストライカーとしてプレイし始めてからに記録を絞れば、139試合で116点だ。
1ゴール当たりにかかった分数では、なんとゲルト・ミュラーに次いでブンデスリーガの歴代二位。
レヴァンドフスキと同じく、115分当たり1ゴールを決めている計算になる。
とはいっても、もちろんこの移籍に少し懐疑的になる理由も理解できる。
移籍金は高額で、このガボン人FWは夏に29歳になる。
これは、スピードが強みの選手にとって残された時間はそこまで長くはなく、
移籍してすぐに得点を量産し始めることを求められるということだ。
たしかに、かなりの高確率で彼はアーセナルに彼らが必要としているゴールをもたらすだろうが、
もしもうまくいかなかった場合のリスクを考えた際に、それは、この価格に見合うものだろうか?
決定力ではなく、顔を出すチャンスの数で勝負
当然、オバメヤンを求める一番の理由はその得点数であるはずなので、まずはこの点から始めよう。
オバメヤンは無駄が多いわけではないが、かといって、そこまでシュートに長けているわけではない。
実際のところ、彼の決定力は平均的であり、どちらかというとチャンスに多く顔を出すことで得点を重ねるタイプの選手だ。
これはとても重要なポイントだ。ガーディナーがスターリングの好調さを評した時の言葉を借りると、
『プレミアリーグで得点ランキング上位に名を連ねる選手がここまでシュートが下手である、というのはどういうことなのだろうか?答えは、意外にも簡単だ。我々が思うほどには、シュート技術というのは
重要ではない。スターリングが教えてくれているように、トップスコアラーになるには、チャンスをいかにして決めるかよりも、何回チャンスに顔を出すかの方が大事なのだ。』
ということになる。
ゴール前では比較的落ち着いており、美しいチップキックでのゴールなどもいくつかは決めるものの、
オバメヤンの決定力は普通のレベルであり、シュートを外すことも多くある。
だが、彼の走り込みから数え切れないほどのチャンスが生まれるため、ここまで、それは全く問題とならなかった。
スピードに頼り切りの選手ではない
彼は28歳で、年を重ねて動きが遅くなるにつれてオバメヤンの能力も衰退するのではないか、
という懸念には一理ある。
だが、ジェイミー・ヴァーディが我々にそこまで急激にスピードというのは失われるものではないと教えてくれている。
実は、環境は違えど、オバメヤンも同じように遅咲きの選手で、
二十代前半まではレンタル移籍先をたらい回しにされて育った。
22歳になるまでは全く大した選手には見えなかったが、
サンティティエンヌでついに芽を出した。
もちろん、今から3年後にどれくらい得点を重ねられるかはわからない。
だが、現状ではオバメヤンの能力が急激に落ちると示すものは何もない。
どちらにせよ、オバメヤンの裏に抜ける能力をスピードのおかげだと結論付けるのは侮辱のようなものだ。
むしろ、真の秘訣は彼の知的で鋭い動き出しであり、
これはアーセナルではロビン・ファン・ペルシ―が去って以来見られていない能力だ。
ドルトムントではただゴールに流し込むだけの得点が多いといわれるが、
そのようなボールが転がってくるポジションに常に位置することができる、というのは称賛に値する。
最初の数メートルでの爆発的な加速は大いに役に立つが、
オバメヤンに得点の量産を可能にしているのは、
自身のためにスペースを作り出す能力だ。
相手DFの死角からファーポストに消えるか、あるいは、ニアに走りこむと見せかけて空いたスペースに戻るか、
どちらにせよ、彼が決めるシンプルなゴールはたまたまこぼれてきたものではなく、オバメヤンが自分で作り出したものが多い。
それは、この動画の05:57からのゴールシーンによく表れている。
アーセナルはオバメヤンを活かせるか?
問題は、アーセナルが彼の強みを生かしたサッカーが出来るかどうかだ。
オバメヤンにドルトムント時代のような活躍を期待するのであれば、
チームは継続して彼にボールを供給し続けなくてはならない。
ドルトムントではより戦術的にオバメヤンを活かす体制が敷かれていたことは覚えておくべきだろう。
もちろん、オバメヤンにも欠点はある。実際のところかなり多くの欠点が。
彼はスピードの割にドリブルがそこまでうまくなく、体に近い位置のボールをコントロールする技術は平凡だ。
彼は身長が187cmあり(これは、足の速さからすると意外に思えるかもしれないが、
レヴァンドフスキとカバー二よりもほんの少し高い)、このおかげで俊敏に方向転換をすることは難しい。
そして、このボールコントロール能力の平凡さはラカゼットやジルーのようにポストプレイヤーとして使おうと考えると、
さらに大きな問題となるだろう。
オバメヤンはボールの受け手となって点を決められるが、彼にチームメイトへのおぜん立てを期待するのは少し厳しい。
したがって、アーセナルの攻撃が上手くいっていないときには前線で孤立してしまう可能性が高い。
だが、仮定の話だが、ラカゼットとコンビを組めばこれは緩和されるかもしれない。
彼はアーセナル加入以降ボール保持時に他のチームメイトと連携して相手を崩すのも非常にうまいということを示している。
もしかすると、むしろラカゼットよりもこのように前のめりな姿勢のストライカーを最前線に置いた方が、
アーセナルは上手くいく可能性すらある。
前線と中盤が分断されてしまうのではないかという心配もあるが、オバメヤンが繰り返し前線に走りこむことで敵のDFラインを押し込み、
ラカゼットあるいはエジル、ムヒタリアンがボールを保持し攻撃を構築する時間を作ってくれるだろう。
時には攻撃時に彼より後ろにいるチームメイトが敵の注意を集め、
オバメヤンにとってより多くの裏のスペースを生んでくれるかもしれない。
ピッチ外での態度は?
またピッチ外での問題の心配もあり、それも確かに的外れなものではない。
ドルトムントでオバメヤンは平穏な時を過ごしたとは言い難く、
クラブは一年で三度もオバメヤンを試合から外す処置を下している。
もちろん、そのうちのどれもが大して深刻な違反だったわけではないが、それでも考慮しなくてはならないだろう。
一件目は、オフの日にクラブの許可なくミランに移動したことだ。
確かに、大ごとではないが、誕生日パーティに出席するためにプライベートジェットを使う際には、クラブに連絡するのが筋だったかもしれない。
また、今季の前半には、許可なくTV局のスタッフをトレーニング場に招き、シュツットガルト戦を欠場することになった。
そして、去就の問題で揺れる最中の数週間前の事件が3件目だ。重大なチームのミーティングに出席するのを”忘れて”しまったらしい。
これは、クラブの激しい怒りを買ってしまった。彼の支持者もこれはやりすぎだったと認めている。
ドルトムントのスポーツディレクター、ツォルクは、
『物事には限界というものがあり、これ以上オバメヤンの態度を許容するわけにはいかない。彼の頭の中がどうなっているのかはわからない。今日真剣に話をしたよ。我々はそのような態度には慣れておらず、このような状況をそのままにしておくわけにはいかない。』
というコメントを出している。
しかし、このような上層部からの評価とは異なり、
アレクシス・サンチェスに関して報道されていたような、チームメイトとうまくいっていないなどといった噂は全く出ていない。
彼は陽気で、チームメイトからも好かれているようだ。
そして、ほとんどの間、彼は常によく努力し、プロフェッショナルな姿勢を保ってきた。
実際のところ、彼のけばけばしいファッションに宙返りのセレブレーション、
派手な髪形にダイヤのブーツ、金色の車とは対照的に、彼は比較的落ち着いており謙虚だ。
アーセナルの選手ともうまくやれるだろうし、彼の気質は問題とならないだろう。
オバメヤンにもストライカーとして足りない部分はあり、この移籍は上手くいかない可能性もある。
アーセナルは彼のためにチャンスを生み出すのに失敗し、彼の最も得意とするエリアを活かせないかもしれない。
あるいは、すべてがうまくいき、アーセナルはキャリアの終盤に差し掛かっているとはいえ、1シーズン30ゴールを挙げるストライカーを手に入れることになるかもしれない。
それは巨大でかつ高額なリスクだが、それでもなぜアーセナルがそのリスクを犯そうとしているのかは明らかだ。