ありがとう、エデン・アザール

       
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MiyajimaShin

MiyajimaShin

チェルシーを求めてイギリス留学のできる大学に進学。いろいろあってロンドンではなくブライトンにたどり着くが、そこでブライトンの良さを体感。週末は電車で1時間のスタンフォード・ブリッジへ、空いてる日には歩いて15分のアメックススタジアムへ足を運ぶ。

ファンは ”知らないふり” をしていたのかもしれない。

それは、ほんのわずかな希望を持ちたかったからだ。もしかしたら、彼は残ってくれるかもしれない。

いつものいたずらな笑顔で、いつもの愛とリスペクトに満ちた言葉で、「僕はチェルシーに残るよ」と言ってくれると。

 

 

ただ現実は甘くない。

 

ヨーロッパリーグ優勝が決まったまさにそのピッチの上で、エデン・アザールはためらいながらも振り切ったように述べた。

 

「これがお別れになると思う。新しい挑戦をする時が来たんだ」

 

目をそらし続けていた事実は、時が経つにつれて、大きな寂しさに変わっていく。

 

そしてその日は来た。

 

 

 

アザールのマドリー移籍が決定した。

 

苦楽を共に味わった7年間が終わった。

 

このタイミングだからこそ、小さなベルギー人とチェルシーの日々を振り返る。

 

歴史的な夜に導かれた出会い

 

この出会いは運命かもしれない。

 

2011-12シーズンの中旬から、チェルシーがエデン・アザールを獲得するという噂は流れていた。

 

しかし、弱冠20歳にしてフランスNo. 1プレイヤーと認知されていたエデンには名だたるビッグクラブから関心が寄せられる。

 

その中でもアザール自身がCL出場を希望したことから、リーグで苦戦しCL権獲得が危ぶまれたチェルシーにはチャンスがないかと思われた。

 

実際にマンチェスターの2チームが有力候補に挙がっていたのだ。

 

未だに古巣からの愛を受けるアザール

 

しかし、歴史的なミュンヘンの夜がエデンを惹き寄せた。

 

2012年5月19日、チェルシーがバイエルンミュンヘンを倒し欧州王者となった。

 

それはつまり、チェルシーが来季のCL出場権を獲得したことも意味していた。

 

そして2012年5月28日、アザール本人がツイートする

 

 

『僕はチャンピオンズリーグ王者と契約するよ!』

 

公式発表より先に本人から公開されたこのツイートは、全世界のチェルシーファンを熱狂させる。

 

やはり決め手はCL優勝だった。

 

幾多の困難を跳ね返し獲得したビッグイヤーは、更なる宝石をもたらしたのだ。

 

そしてボシングワの「17」を引き継いだ21歳の若者がスタンフォードブリッジに降り立った。

 

 

”期待の新星”は”新しい伝説”へ

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シアトル・サウンダース戦でチェルシーデビューを飾るアザール

 

21歳にして、リールの最終年は全コンペティションで22ゴール22アシスト。

 

規格外の才能であることは証明されていた。

 

だからこそ守備的なスタイルでCLを制覇したブルーズの攻撃的スタイルの旗振り役として、ファン、オーナーからの期待を一身に受けた。

 

ただ懐疑論もある。

 

「リーグ1で活躍したと言ってもプレミアでの活躍は保証されない」

 

主に他サポから聞こえた声だ。

 

しかし彼はすべてを吹き飛ばす。

 

開幕戦から彼は輝くことを止めなかった。

 

相手はウィガン。

 

その才能を証明するのには2分で十分だった。

 

背後から迫るスペイン人DFイバン・ラミスをワンタッチで振り切ると、前線に走りこんだイバノビッチへ最高のラストパス。前半2分にチェルシーが先制した。

 

その5分後には右サイドからアザールが縦に仕掛けると、ラミスが今度は堪らずタックル。これで獲得したPKをランパードが決めた。

 

エデン・アザールの最初の被害者はイバン・ラミスだった。

 

ただこのスペイン人を責めるのはアンフェアなのかもしれない。

 

その後も数々の屈強なプレミアDF陣が被害者となるのだから。

 

 

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ラミスに倒されPKを獲得するシーン

 

ベルギーの神童の1年目はプレミアで9ゴール14アシスト。

 

初シーズンとしては上々の出来を見せると共に、その後のシーズンも存在感を増し続け「チェルシーの顔」としてすべてのファンに認められた。新しい10番にも指名された。

 

ただ、その道のりには困難も多かった。

 

12-13シーズンにはスワンズのボールボーイを蹴って批判を浴びた。

 

13-14シーズンにはPSGに敗戦後にPSGユニフォームを着てインタビューに現れ批判を浴びた。PSG移籍が噂されたタイミングだったことも大きく影響した。

 

15-16シーズンには大不振に陥り、結果を出せずに批判をされた。

 

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ボールボーイを蹴ったとして退場になるアザール

 

 

それでも、この7年間の中心には必ずアザールがいた。

 

 

 

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14-15シーズンの自身初のプレミア優勝を決めたパレス戦。PKを押し込み勝利に導く。

 

 

15-16シーズンの鮮やかなゴールで宿敵のプレミア制覇の夢を砕いたスパーズ戦。

 

 

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16-17シーズンの独走ドリブル で守備陣を崩壊させたアーセナル戦。このシーズンはコンテの元、自身2度目のプレミア制覇を経験した。

 

 

そして18-19シーズン、決勝戦での2G1Aによりガナーズを破りヨーロッパタイトルを手にした。

 

 

挙げればキリがないが、ほとんどのシーズンで攻撃を牽引したのはアザールだった。

 

彼は自身の才能の大きさを見せつけることで、

 

テリー、ランパード、ドログバに次ぐ「新しいレジェンド」として昇華していくのだった。

 

「愛される天才」へのエール

 

7年間でわかったことは、彼が『愛される天才』であることだ。

 

彼を愛さないことは不可能ではないか。

 

彼はいつも笑顔を連れてくる。

 

チームメイトとふざけ合い、甲高い声で笑う動画は探せば山のようにあるだろう。

 

インタビューでのふざけた回答は彼の代名詞だ。

 

彼はいつも努力を身に纏う。

 

マイペースなハンバーガー好きに見えるかもしれないが、入団当初に比べて明らかに強化された身体はプレミアでも倒れない肉体作りへの努力の証拠だ。

 

彼はいつも勇敢だ。

 

「僕らはチェルシーだよ。どんなチームにも立ち向かう」

 

こんなことを当然のように語るのがアザールだ。

 

そして、彼はいつもチェルシーを愛していた。

 

最後の最後までファンとクラブに誠実に対応するのが彼の流儀だ。

 

バクーの地で語った“お別れ”はファンの心を暗くした。

 

でも、いつもは自信ありげにメディアへ対応する彼が、目を逸らしながら困惑した表情で話す姿は7年の関係の終止符を自ら宣言する辛さを表してはいないだろうか。

 

愛されることは、愛していることの裏返しだ。

 

きっと彼の中には、たとえ白いユニフォームを着ようとも、青い血が流れ続ける。

 

そしてファンも彼を愛し続けるだろう。

 

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モウリーニョ第一政権を支えたレジェンド達がチームを去った過渡期のチェルシーを彼は生きていた。その能力の高さから、チームの不調時には批判を一身に受けることもあった。

 

しかし、彼の功績は色褪せない。

 

彼がボールを持つたびに感じる高揚感は消えることがない。

 

彼ほどの才能を自分の応援するチームで観れたことが最大の幸せなのだ。

 

ありがとう、エデン・アザール。

 

『アザールとビッグイヤーを掲げたかった。』

 

こんな想いを押し殺しながら、これからはレアルの試合もチェックする。

 

それは「青き永遠のレジェンド」の更なる飛躍を願うからだ。



【了】

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