<グーナーが綴るファンレター>親愛なるヴェンゲルへ22年間の感謝を

       
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広島在住の大学生。ウイルシャーの超絶コンビネーションゴールでグーナーに目覚めた。ゴールよりも連続したワンタッチの崩しが大好物。広島アーセナル観戦会の主催者でもあり、これを機に参加者が増えることを望んでいる。

あなたがアーセナルでの最後の試合を終えてから早いものでもう2週間が過ぎようとしています。

人の関心というものはすぐ移り行くものであんなにあなたへの感謝にあふれていたTwitterのタイムラインはもうすでにあなたの後任の異国の戦術家への期待と新戦力が誰になるかの噂で渦巻いています。

そして私はようやく心の整理がついたので、こうしてあなたへの感謝と敬意を書き綴っているところです。

あなたが歩んできた22年という長い旅路は決して順風満帆なものではありませんでした。

就任すると決まった当初は「Arsène, who?」と疑問の目で見られ、その評価を覆していくことが最初の仕事でしたね。そこからの栄光の日々はさらに詳しく熱い人たちがいますし、語りだしたら止まらなくなるのでここでは多く語らないようにします。

そしてあなたは誰もが認める欧州屈指の名監督となりました。ですが、私があなたの指揮するアーセナルに心奪われたのはもっと後のことで、もうすでにあなたは過去の人のような扱いを受けていました。年々高騰を続ける移籍市場に適正価格ではないと言い張り、数多くのスターたちの獲得を見送り、またある時は宿敵であるモウリーニョや記者と数々の舌戦を繰り広げていました。

ピッチ外での話題がピッチ内の話題よりも頻繁に報道されていた気がします。それでも私が心奪われたのはあなたが作り上げた美しいフットボールでした。中でも2013-2014シーズンのノリッジ戦でのウィルシャーのゴールが最も美しく、あなたの哲学が見事なまでに体現されたゴールだったと思います。

再びあのようなゴールを見たいですがこの先22年は見ることはできないでしょうね(笑)。

そしてこのシーズンで久々のタイトルを獲得し、ここから復活を遂げるのかと思いましたが、逆にあなたの力不足が目立つようになっていったように感じました。

前半戦は好調に飛ばし今年こそは?とみんなに期待を抱かせておきながら年末ごろには雲行きが怪しくなり、2月3月ごろには修正不可能な状態まで陥る。

そしてなぜだか復調しシーズン最後に帳尻を合わせていくが一歩届かずといったサイクル。ヴェンゲルサイクルとでも呼びましょうか、こういった繰り返しの日々に我々グーナーはうんざりしていたのかもしれませんね。

やがて「wenger out」の声が皆の総意のようになっていき、今日に至ると思います。

私はあなたの去就に関してもうこれ以上傷つくあなたを見たくないこれ以上傷つくのであれば辞めてくれという立場でいました。

あなたが退任すると決まってからでも目を覆いたくなるような試合が相次ぎ、最終節のハダーズフィールド戦で勝利し、やっと傷つく姿を見ないで済むと安堵しました。

しかしこの手紙を書いていてふつふつと湧き出てくる感情は全く違います。もっとあなたの愛した美しいフットボールが負けてもいいから、あなたが傷ついてもいいから見たい、と。

なんとわがままな人間でしょうね。

書いていて自分でも思います。私はあなたに出会う前はヨハン・クライフに心酔していました。当時は彼が語った「美しく敗れることは恥ではない、無様に勝つことを恥と思え」や「ボールを動かせ、ボールは疲れない」などの名言を座右の銘のようにしていましたし、今でも自分のサッカー観に大きな影響を与えています。

そしてあなたがアーセナルを離れてひしひしと感じるのですが、私はあなたとクライフを重ねていたのだと思います。そして批判されていたあなたの時代遅れのフットボールを愛していたのです。

私たちの生きる科学の発展した現代ではよくこんなことが議論されます。

昔より遠くに行けるようになったし、時間も効率的に使えるようになった。しかし私たちは昔の人々よりも幸せなのだろうか?と。

これはサッカーのおいても同じことが言えると思います。昔より運動量は増えたし、選手の出来ることは増えた。しかし私たちは幸せにサッカーをしているか?と。サッカーはここ数年、急速に発展していると思います。

あなたは22年もの間、それを最前線で見続けてきましたし、その発展にも大きな影響を与えました。ですがこの発展していったフットボールでは常に勝利が最優先事項となり私たちはサッカーにおける幸せをどこかにおいてきたのではないかと思います。そしてその幸せをいまだに持っているあなたがアーセナルを去ることで、フットボールから幸せがなくなるのではないかと危惧しております。

だからあなたにはまだアーセナルで監督をやってほしかった。ですが時代の流れには逆らえません。勝利至上主義が主流となった現代ではもう必然だったのでしょう。私はこれからあなたの理想から離れ、現実的になったアーセナルを応援していきます。

時折あの時はよかったなどとあなたのことを思い出すのでしょうね。あなたが理想と戦い、そしてその理想を実現できずに去っていった美しい日々の思い出を噛みしめるように。



【了】

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