「ベッカム2世」と呼ばれた男、デイヴィット・ベントリーのキャリアの真実

       
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MiyajimaShin

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チェルシーを求めてイギリス留学のできる大学に進学。いろいろあってロンドンではなくブライトンにたどり着くが、そこでブライトンの良さを体感。週末は電車で1時間のスタンフォード・ブリッジへ、空いてる日には歩いて15分のアメックススタジアムへ足を運ぶ。

読者の皆様は、

デイヴィット・ベントリー

という選手を覚えているだろうか?

ベントリーとは

 

アーセナルユースの出身で、世代別のイングランド代表では、各年齢で選出され続けた。ブラックバーンでの活躍が認められ、A代表入りも果たしたウィングの選手だ。

彼の持ち味は、右足での正確なキックだ。その精度の高さから“ベッカム2世”と呼ばれ、イングランド中から将来を嘱望された。トッテナム時代に、ノースロンドンダービーでアーセナル相手に決めたロングシュートは有名である。

 

 

しかし、彼のキャリアは周囲の期待通りには進まなかった。スパーズで定位置を掴めず、クラブを転々とした。その後も日の目を浴びることもなく、29歳という若さで10年間の現役生活に自ら幕を閉じた。サッカーをプレーする楽しさを、忘れてしまったためだ。

多くの人は彼の成長を妨げた要因として、ピッチ外での言動を挙げる。カペッロに可笑しなニックネームをつけ、代表招集を断り、試合後のインタビューを受けているハリー・レドナップにバケツの水をかけた。彼の自由奔放な性格は、たびたび批判に晒された。

現在、ベントリーは代理人として働く傍ら、レストラン経営にも精を出し、オーダーメイドのフローリング会社も立ち上げた。そんな彼が、テレグラフ紙の独占インタビューに答えた。この中で彼は、自身についての報道の真実を赤裸々に話してくれている。

この記事はテレグラフ紙のインタビューを翻訳、編集したものだ。

退屈だった代表合宿

ベントリーは当時の代表合宿を振り返る。
彼は、当時の合宿の、様々な規制に縛られた堅いムードにうんざりしていたようだ。

「カペッロは、食べ物にケチャップをつけることすら禁止したんだ。キャプテンが食堂に来るまで、他の選手は食事を始めちゃいけないなんてことあった。そんなのは馬鹿げてる。」

「10時までに部屋に戻って寝る、なんていう馬鹿げた規則があった。そんな時間に寝れるわけない。部屋に帰ったら、何もすることがなかったよ。」

「生真面目じゃなく、ユーモアに溢れる所は、イングランド人のいいところだ。でも、当時の代表合宿はそれを許さなかったんだ。」

そんな中、このようなエピソードもあった

「ある夜中、ジミー・ブラードが僕の部屋をノックしたんだ。彼は腹が減ったといっていた。だから、マクドナルドを食べようって話になったんだ。」

「ホテルの外に、一緒に協力してくれる友達がいた。そいつに電話して、ホテルにハンバーガーを運ぶように頼んだんだ。」

「警備員は裏口の周りにいた。でも一瞬、どこかに歩いて行ったんだ。だからその隙に、友達はホテルの中に入れた。警備員の横を通って、スポーツドリンクのボトルケースにバーガーを入れてね。」

「誰もこのことに気付いてないと思うよ」

当時のイングランド代表監督、ファビオ・カペッロとの噂も聞いた。

噂はチームのミーティング中での出来事だ。彼はこのイタリア人監督を、アニメキャラクターの名前になぞらえて呼んだというのだ。

Q:カペッロことを、本人に向かってポストマン・パット(イギリスのアニメキャラクター)と呼んだのは本当?

「本当だよ。」

「別に、監督を侮辱するつもりはなかったんだ。ただ、周りを笑わせたかっただけだよ。僕は沈黙が嫌いでね。他の人が楽しんでいるのを見るのが好きなんだ。」

「監督は本当にポストマン・パットに似てたんだよ!僕は確か、“了解です、ポストマン・パット”って言ったんだ。彼は英語が得意じゃなかったから、僕の言ったことを全く理解せず、自分の話を続けたよ。その場のみんなは、爆笑していたけどね。」

代表拒否の裏側

ベントリーは、ウェンブリー・スタジアムで21歳以下のイングランド代表としてイタリア相手にゴールを決めた。改修後のウェンブリーで得点した、最初のイングランド人になった。

そのシーズンの終了後にイングランド代表は、21歳以下のヨーロッパ選手権を控えていた。ブラックバーンで活躍していたベントリーは、メンバー入りの有力候補であった。

しかし、彼は代表招集には応じなかった。メディアは、”ベントリーが、スチュワート・ピアース(当時の21歳以下イングランド監督)からの要請に対し疲労を理由に辞退した” と報じた。この行為は、イングランド中で批判を受けた。

この時の裏側を、ベントリーは振り返る。

「僕はその直前のシーズン、62試合に出場した。それで、マーク・ヒューズ(当時ブラックバーンの監督)が僕に言ったんだ。“ヨーロッパ選手権には行かないほうがいい”ってね。次のシーズンに悪い影響を出さないためにね。だから、僕はそうした。」

「そうしたら、イングランド中から批判されたんだ。報道では、僕が、疲れてるから代表に行かないっと言ったことになってる。でもそれは、間違って報道されたことなんだ。」

「僕は、しっかりと、スチュワート・ピアースと電話で話し合ったんだよ。どの選手とは言わないけど少なくとも一人は、ピアースからの電話を無視したやつがいることを知ってる。彼も代表のメンバーに入るはずだったのにね。僕は、ピアースに “1シーズンで62試合も出た。それに、インタートトカップ(現在は廃止)も控えてる” と伝えたよ。」

「マーク・ヒューズは、“ヨーロッパ選手権には行かず、休むべきだ”って言った。彼のアドバイスに従って、次のシーズンに備えるために代表は辞退したよ。代表には行きたかったけどね。でも、その結果、次の年も、いいシーズンが送れた。あの選択は、間違ってなかったと思ってる。」

しかし、ウェンブリーに詰めかけた観客は、ベントリーの判断を許さなかった。2007年9月、彼は自身のA代表デビュー戦で、ブーイングを受けるのだ。

Q:この決断で、ピアースに見捨てられたと思う?

「もちろん、そう思うよ。それに、ファンからもね。彼らはいつも批判の的を探してるんだ。それで、僕がA代表のデビュー戦で批判を受けた。気分は良くなかったね。イングランド代表には、そんな嫌な気持ちがずっと残ってるよ。」

「ひどく批判されてる中で、どうやってプレーを楽しめばいいんだ?どうやってピッチで自分を表現すればいいんだ?きっとただ、こんなのは嫌だって感じながらプレーするだけだよ。僕はこういう気持ちになるのが好きじゃない。でも当時のイングランド代表では、この不快な感情を止めることができなかった」。

彼は、現在のイングランド代表についても言及する。

「今の代表も、同じことは起きてると思う。もし、イングランド代表がもっとのびのびとプレー出来たら、僕たちはワールドカップもユーロも優勝できる。でも今のメンタリティーじゃ、確実に無理だね。今回のワールドカップも獲れないよ、可能性は相当低いね。」

水バケツ事件

ベントリーは改築されたウェンブリーで初めて得点したイングランド人であり、マンチェスター・ユナイテッド相手にハットトリックを成し遂げた初のブラックバーンの選手である。

しかし、彼を有名にしたのはプレーだけではない。ベントリーと聞いて、ユニフォームと黒のパンツ姿で、びしょ濡れの老人の横に立ち笑顔で飛び跳ねる光景を思い浮かべる人は多いだろう。

事件は、2010-2011シーズンのマンチェスターで起きた。アウェーでマンチェスター・シティを倒したスパーズの選手は、大いに盛り上がっていた。

そのセレブレーションの一環として、一部の選手はテレビのインタビュー中のトッテナム監督、ハリー・レドナップに対し、バケツから氷水をかけるのだ。その首謀者がベントリーであり、テレビには大喜びのベントリーが映し出されている。

ベントリーは、この行為が彼のスパーズでのキャリアに大きな影響を与えたと考えているようだ。

Q:水バケツ事件について聞かせて。

「実際、チームのみんなは、更衣室で監督に水をかけようとしてたんだ。でも、監督はいなかった。そこで誰かが、監督を捕まえろ、って言ったんだ。」

「そして、彼がTVのインタビューを受けていることが分かった。だから、僕はそこに行って水をかけたんだ。あれは、ただのセレブレーションだよ。別にレドナップを馬鹿にしようとしたわけじゃない。」

「監督はハッピーじゃなかったみたいただね。彼はアレックス・ファーガソンのようなイメージを定着させたかったんじゃないかな。でもそんな時に、水をかけられた。気分はよくないだろうね。」

「僕はそのシーズン多くの試合に出れて、監督との間には何も問題はなかった。でも、あれがすべてを終わらせたんだ。」

自身のキャリアについて

結果的に、その後のスパーズでのキャリアはうまくいかなかった。ベントリーはトッテナムと6年の契約を結んだが、4シーズン目にローンでバーミンガムに移った。その後はウェストハム、ロシアのロストフに渡り、ブラックバーンで現役を退いた。

「ブラックバーンに戻った後のカーディフ戦が、僕がプレーする最後の試合って決めてたんだ。その試合は、お父さんがスタンドにいた。僕は彼に、“やり切ったよ。”って言ったんだ。お父さんは、“まだやれるだろ?”と言ってた。でも僕は、“いいや、全てやり切った。”って返したんだ。」

「みんな僕が落ち込んでるんじゃないかって、気にするんだ。でも、僕はサッカーではない他のことがやりたいんだよ。僕はサッカーをしていて、いい時間を過ごせた。自分が好きだったサッカーで成功した。楽しい時期は長くなかったけどね。でも、僕は自分のキャリアに満足してるよ。」



【了】

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