「3バックでエレーラ?」モウリーニョの采配は奇策ではなく合理的!?<林舞輝のプレミア戦術手記>

       
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プレミアパブ編集部

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モウリーニョが3バックを使うことは滅多にない。

チェルシー時代に「ピッチの横幅約70メートルを3人で守るというのは、よほどの経験と知性のある選手でないとこなせない」

という趣旨の発言をしていた。

書き手

林舞輝

1994年12月11日生まれ、23歳。

イギリスの大学でスポーツ科学を専攻し、首席で卒業。在学中、チャールトンのアカデミー(U-10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部の大学院に進学。同時にポルトガル1部リーグに所属するボアビスタのBチーム(U-22)のアシスタントコーチを務め、主に対戦相手の分析・対策を担当。

モウリーニョが責任者・講師を務めるリスボン大学とポルトガルサッカー協会主催の指導者養成コース「HIGH PERFORMANCE FOOTBALL COACHING」に合格。

3バック採用の理由

にもかかわらず、モウリーニョは0-3で敗戦を喫したトッテナム戦でどうして突然3バックを使ったのか?

答えは非常にシンプルだと思う。

まずは単純に、ユナイテッドが抱えるCBが酷すぎるのだ。

本来は中核であるはずのバイリーはレスター戦こそ決定機を阻止するシーンがあったが、その後のパフォーマンスは目も当てられず。またリンデロフも未だにフィットする兆しが見えない。

「マンチェスター・ユナイテッド」の名前に相応しいCBなのか疑問が残る。

では、質が足りないならどうするか。

量を増やすしかない。2枚のCBを3枚にすれば多少はマシにはなるはずだ。

この「陳腐な応急措置」というのが、まずは3バックにした一つの理由だろう。

もう一つは、トッテナムのシステムとの噛み合わせだ。

トッテナムは今シーズン、ケインとルーカスで2トップを組ませ、中盤に典型的なサイドアタッカーを置いていない。

サイドアタックは基本的に両サイドバックのトリッピアとローズに任せている。

ただ両者とも運動量、フィジカル、クロスという武器は持っているものの、個で打開するような力はない。

こういったことから鑑みても、4バックを敷いてサイドに人数を割くよりも、3バックで2トップに対して二人がマークする。

そして一人が保険として余ってカバーという形を取り、サイドには最初から高い位置にWBを置いてトッテナムの両サイドバックへ対応させるのは、奇策というよりも極めて合理的な戦術的判断のように思う。

何故エレーラが選ばれたのか

また中盤が本職のエレーラを3バックの右で起用した理由は何故なのだろうか。

これもまたシンプルであり、問題の根源は同じだと思われる。

3バックとして起用できそうなCBがいないからだ。

つまり、ポジティブな意味合いでの起用と言うよりもどちらかと言えば消去法に近いだろう。

プレシーズンでこそ毎度試していたが、本番ではやっていなかった3バックに変更するのだから、高いサッカーIQを持つ選手でないと適応はできない。

先程述べたように、相手の2トップに対して2人がマンツーマンのような形で見て、一人が余ってカバーをする方法なので、ラインコントロールなどは要求されない。

また、ルーカスは空中戦には強くなく、ケインはヘディングは強いがトッテナムがチームとして彼にひたすらロングボールを送り込んで試合を組み立てるということは滅多にない。

そのため空中戦での強さも必要ない。

求められるのは、異なるシステムとポジションとタスクを即座にこなせる賢さ、球際の強さ、マークについていく献身性、カバーリングのセンスなどだ。

従って、モウリーニョエレーラのことを非常に高く評価していることからも(私の通っているモウリーニョ監督の授業内でも「最もインテリジェントな選手」と称していた)、エレーラが3バックの一角に選ばれること自体はまったく不思議ではない。

もっとも、天下のユナイテッドがエレーラに3バックをやらせなければならないほどDFの人材が不足しているというのは不思議で不思議で仕方がないのだが。モウリーニョ監督にとってはこの状況はもはやミステリーというよりホラーだろう。

モウリーニョの目論見通り、前半終了間際まではユナイテッドの3-5-1-1は機能していた。

3バックは2枚が相手のFWをマークし、余った一人がカバーリング。

常に最後尾で数的優位を確保してあるので、カウンターも受けず。

ショーとバレンシアがWBとしてそれぞれトリッピアとローズに対応し、サイドからの積極的な攻撃参加でトッテナムを押し込む。

ハイプレスではリンガードとルカクが並び3-5-2の形で相手をはめに行き、大きなミスを誘って立て続けにビッグチャンスを作った。

中央より後ろでは、3ボランチがゾーンに入って来る選手を捕まえて中盤での数的同数を確保。

基本的にはマティッチがアンカーとしてトッテナムの中盤のダイヤモンドの頂点(トップ下)にいるエリクセンをマークし、右がポグバが左がプレッジ。

中盤の底のダイアーにはトップ下のリンガードが下がって対応。守備の噛み合わせが非常に上手くいき、トッテナムの強力な攻撃陣を黙らせることに成功した。

トッテナムの初シュートは、実に試合開始から40分が経った頃だった。

しかし、前半終了間際に二列目から飛び出したアリに決定機を作られると、そこから状況は一転。

3-5-1-1システムが機能しなくなり、後半の立ち上がりに立て続けに2失点。

結果、ホームで0-3という大敗を喫している。

ではユナイテッドを崩壊に追い込んだ、トッテナムの今シーズンの秘策、「可変式カルテット」について、次回のコラムで語りたいと思う。

(続く)

NEXT:ダイヤモンド&ボックス。トッテナム脅威の「可変式カルテット」の脅威

 



【了】

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