【パリサポに聞いてみた】エメリってどんな監督?「得すること、損すること」とは?

       
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プレミアパブ編集部

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アーセナルやプレミア・リーグを好きな方々に

ウナイ・エメリがどういう人物で、

アーセナルへ来る前にPSGでどのような2年間を過ごしてきたかを知ってもらうためにいろいろ書き出してみました。

書き手

ウナイ・エメリという監督が持つ「顔」

監督のタイプには大きく分けて2つあると私は考えている。

それは「1試合に対してあれこれと策を講じる戦術家」と「シーズンを見通すタイプのモチベーター型戦略家」。

具体例としては前者がアッレグリやサッリ、後者はジダンやアンチェロッティか。

ではアーセナル新監督、ウナイ・エメリはどうかというと、世間一般的なイメージでは圧倒的に戦術家寄りと見られているはずだ。

事実リーガ時代はその側面が強かったことだろう。

しかし、パリ・サンジェルマンというクラブでの彼はそうではなく、むしろ戦略家の方に寄っていたのではないかという印象が私にはある。

「PSGにおけるウナイ・エメリ監督」を語るとき、彼は2つの顔を持っていたのではないか?

まず1つは就任から半シーズン、従来のイメージ通りに戦術家としての拘りを強く覗かせた面。

自身の戦術や哲学が優先的に存在し、現有戦力との相性云々はその次以降にあるという考え方は随所に感じられた。

中盤を例に取ってみよう。

PSGのMF陣は右を見ても左を見ても3センター向きばかり。

その顔ぶれは

大柄で力強さを持ちながら縦横にパスを供給するアンカー型ゲームメイカー(レジスタ)のチアゴ・モッタ

テクニシャンでありながら「ガットゥーゾ」の要素を持つ闘犬ヴェッラッティ

そしてピッチの左半分を広範囲に走るBox to Boxのマテュイディの3人。

アーセナルのファンの方にもわかりやすくするために、タイプが近いと思われるプレミアの選手を用いて無理やり表現するなら…

上からダーティなキャリック、ロングパスを扱うウィルシャー、より推進力とボール奪取に重きを置いたミルナーか。

彼らはいずれもブラン時代を支えた鉄板の3センターである。

にも関わらず、開幕から4-2-3-1を導入して自身のカラーを色濃く出そうと試みて不発に終わったことはまさにその典型。

そのこともあって正直に告白すれば、個人的に当時は苦手なタイプの監督だった。

2つ目はそれまでと打って変わって選手たちの意見、彼らのプレースタイルや特性に歩み寄った2017年以降… 「ビッグクラブの監督」らしい戦略家の要素を取り入れた姿。

それはチームの結果にも如実に表れており、16-17シーズン前半戦のリーグと国内外カップを全て合わせた戦績が16勝6分4敗になるのに対し、4-3-3を本格再導入していた2017年1月~シーズン終了までとなると25勝3分2敗。

大きく改善していることが分かる。

半シーズンの挑戦期間は後にリーグ・アン優勝を逃すほどの大きな代償となったものの、

「戦力(人)への歩み寄り」と「自身の第一選択肢が合わないと感じた際の諦め」を身につけたことは彼の監督キャリアにとっても大きな材料となる。そう信じたい。

ウナイ・エメリで得したこと

①誠実なメディア対応

昨シーズンは6-1でのCL敗退、今シーズンはネイマール関連をはじめ、何かと神経を逆撫でされる報道が多かった。

しかしながらエメリは真正面から受けて声を荒げることは絶対にせず、かといって煙に巻いてのらりくらりとかわすわけでもなく、真摯かつ丁寧に対応する姿に対しての評判は高い様子。
現に何人かの番記者はその穏やかな人柄に感銘を受け、彼の退任の際は別れを惜しんだほど。

批判や挑発を受けても顔色が変わらない対応力は世界で最も注目が集まるプレミアでも武器になるのではないだろうか。

②謎の人心掌握術

またこのような人柄の良さは選手への対応に表れていて、就任当初からチアゴ・シウバやモッタ、ヴェッラッティ、カバーニといった古株からの信頼も妙に厚く、ダビド・ルイスやオーリエ、ベン・アルファという奇人変人以外とは上手く付き合った印象がある。

たとえその相手があのネイマールでも…だ。

(彼自体、これまでのキャリアで脱税はしても監督と衝突したイメージはあまりないが)

思い返して欲しいのはカバーニとのあのPK問題以外に「衝突」や「造反」のニュースを見ただろうか?

思い当たる節はといえばせいぜいCL敗退後にイラついたドラクスラーが起用法と戦術について少し不満を漏らした程度だ。

あのPK問題ですらも泥沼化せずに気がつけば収束していた(カバーニの利他的な対応があったのも要因の1つ)

決して卓越したリーダーシップを武器に選手を引っ張り上げるタイプの闘将ではないものの、(外野にはその手法がわからずとも)何かしらの方法で選手たちからの尊敬を勝ち取り、不満を上手く解消する調整的な手腕に長けた監督なのかもしれない。

③ローテーションの活用

ビッグクラブ2年目ともなると持てる戦力を余すところなく使いたい意思でも芽生えたか、ローテーションも上手く使いこなすようになる。

フランスもイングランドと同じくリーグ戦に加えて国内カップ戦を2つ、CLと並行して4つのコンペティションを戦うが故に年明け以降の野戦病院化は慣例行事だったが、主力の怪我を可能な限り予防する能力も長けている。

ローテーションの有効活用は主力の体調管理やバックアップメンバーの不平不満解消だけでなく、後述の若手の出場機会の増加にも繋がった。

④若手の育成…抜擢と重用

エメリ最大の功績は期待の若手たちを次々と各国代表に送り込めるまでに成長を促したことだろう。

「若手育成」に自信を持つアーセナルのファンにとって、ひょっとすればここは大きな注目点となっているかもしれない。

一例を挙げると今シーズン一番の決戦となったマドリー戦1stレグにてエメリは平均年齢がちょうど25歳のスタメンを送り込んでいる。

ここからはそのスタメンに名を連ね、エメリ政権下で特に成長した5人を紹介する。

※ここぞとばかりにPSGの若手を紹介してやろう…なーんて魂胆はないですよ!(大嘘)

レンタル先での活躍が認められ、2016年夏に復帰して初年度のアレオラはドイツ代表の万能型GKトラップとほぼ互角に近いレギュラー争いを繰り広げていた。

今シーズンはプレシーズン以降エメリの信頼を改めて勝ち取って競争をリード。

以降は自信を増していき、それに比例するようにパフォーマンスを向上させて懐疑派の声を黙らせた。

今現在噂されるブッフォン獲得が実現しても正守護神は引き続き彼が担当するのではないかと見られている。

野心家の母親によってこの世に生を受けたラビオはアンチェロッティに見出され、ブランからも前述の鉄板3センターに次ぐ「4人目の中盤」として準レギュラー的に出場機会を選手だ。

この時点ですでに悪くない成長曲線を辿っていたが、エメリはスタメン出場を増やしてやがてレギュラー化。

起用法にガンガン口を出す母親(代理人)の機嫌を上手く取りながらリーグを代表するMFとして大成。

マルキーニョスも加入して3シーズンはブラジル代表の先輩たち(チアゴ・シウバ、アレックス/ダビド・ルイス)に次ぐバックアップとして過ごしたが、エメリは就任の段階からすでに彼の重要性と重用を明言していた。

ルイス突然のチェルシー移籍が許可されたのもマルキーニョスをレギュラーとして使いたいという意向があったからだと言う。

今では重鎮チアゴ・シウバとチアゴ・モッタに次ぐ第3主将の座まで射止めている(来シーズン以降は副主将へ昇格)

ラビオとマルキーニョスを主力に据えて移籍をブロックし、若手リーダー格へと成長させたことはクラブの財産に繋がったと評せるだろう。

そのマルキーニョスがレギュラー昇格したことによって序列が自動的に上がったのがキンペンベ

エメリの元で最も成長した選手といって差し支えない。

彼はこれまでに紹介してきた選手たちとは異なり、それまでの実績が一切皆無。

ルイスが放出されて代替のセンターバックを獲得しないと聞いたとき、人々はエメリの正気を疑った。

シウバの怪我という偶然の出来事があっての代役とはいえ、そんな選手がまさかCLデビューとなるバルセロナ戦1stレグでいきなりメッシとスアレスをまとめて完封するとは誰も予想だにしていなかっただろう。

あれからも日進月歩で成長を遂げており、身体能力の高さや対人守備の強さ、度が過ぎるほどの強心臓を武器にフランス代表にも定着。

意外に思われるかもしれないが、今シーズンのリーグ・アンにおける出場時間ではマルキーニョスやシウバよりも長い。

自前で「シウバ後」を任せられるセンターバックに経験値を積ませた手腕は称賛されてしかるべきだ。

(ひょっとするとアーセナルならマヴロパノスが彼のような成長曲線を辿るかもしれない)


レギュラーの座はまだ確保できていないものの、今シーズン最大の成長株はロ・チェルソ

それまでのキャリアで古典的トップ下としてしかプレーしてこなかった選手だったが、今シーズンは未体験だったアンカーを含め(モッタの負傷離脱を補う意味合いも強いが)、様々なポジションで起用して適性を見定めながらインサイドハーフに住処を見つけることとなる。

CLベスト16 1stレグでは若さを露呈してしまったが、エメリは決して見捨てることなくチャンスを与え続けて彼もそれに応えて逞しさを増している。

昨シーズンの冬に加入したとき、多くの人はロ・チェルソが何者であるかあまり知らなかった。

現に加入して半シーズンの印象も「いつもディ・マリアの側にいる少年」。

そんな彼は今や「4人目の中盤」を担当している。かつてラビオが担っていた役割を。


このようにレンタル復帰(アレオラ)、ある程度完成されつつあった才能の完全開花(ラビオ、マルキーニョス)、下部組織出身者(アレオラ、ラビオ、キンペンベ)、

南米からの青田買い(ロ・チェルソ)…と4パターンで5選手の若手育成を「ビッグクラブで」大成功させた事実は世界的に見ても稀有な例と言えるはずだ。

ただしこれらはエメリの手腕に依るところも大きいが、元々PSGの下部組織が選手輩出に定評があることやリーグ・アンが若手育成に適した環境にあることなども当然加味しないといけない。

みんなも観ようリーグ・アン。

損したこと

これはもう当然4年連続ベスト8のPSGとEL3連覇のエメリを足して割ったら、ものの見事に2年連続ベスト16になったこと。それは「得したこと」でつらつらと挙げたメリットをガッツリと吹き飛ばす勢いで。前述の項目だけ見たならエメリは世界最上位級の名将だが、そうならないのはCLでの成績が芳しくなかったから。

同時にPSGが彼に多大なる感謝を示しながらも契約延長をせずに退任を決断したのはただただこの点に尽きる。

彼は予想以上に人の扱いが上手かった一方で、当初の売りだった「戦術家」としてはたびたびエラーを犯した。

ホームではバルセロナ戦の4-0しかりバイエルン戦の3-0しかり…入念な下準備の成果を発揮できるが、イレギュラー発生率が高いアウェイでは準備を当てハマらなかった場合の修正力も弱くたびたび酷い目に遭っている。

何より圧倒的な戦力を誇る2強と対峙し続けたスペイン時代の経験からか、強豪相手になるといつもと異なるメンバーを送り出したり、腰が引けた戦い方を採用したり、あるいは突如大きな博打に出てしまう。

これはつまり平時のパターンで自信を持って臨めないことの表れだろう。

全ての責任が彼にあるわけではないにせよ、バルセロナ戦2ndレグやマドリー戦1stレグはその典型だと言える。

最初の項目でも述べたように、PSGでは戦術家としての顔よりも調整型の戦略家としての顔が際立ったと評したのはこうした理由があるからだ。

もっとも…この2年間、起こった出来事での経験を糧に自身の弱点や課題を潰して一歩ずつ成長していった監督、そしてそれができる能力を持った監督ではある。

いわゆる「ビッグ6」と呼ばれるビッグクラブたちと頻繁に対戦できるプレミアならば、今後やっているうちに対強豪戦の挑み方の稚拙さが解消されるかも?という見立ても希望的観測に基づけばできなくはない。

…できなくはないが、あまり期待しすぎるとコケたときの失望が大変なことになるので「当たればラッキー」くらいのスタンスが望ましいかもしれない(大きなお世話)

戦術家と戦略家の両立。

これはウナイ・エメリが世界最高クラスの監督になるために必要不可欠な要素。

それを世界最高のリーグ、プレミアという舞台で成し遂げられるか私としても興味深い。

そんなこんなでウダウダとエメリ監督についてのあれこれを書き出してみたが、最後にこれだけは言わせて欲しい。

クセ毛をまとめるためか知らないが、彼は踊る大捜査線の室井慎次もちょっと引くくらいのレベルでポマードを髪の毛に塗りたくる人だということを。

さらに雨が多いイングランドの気候に対抗するため、恐らくPSG時代よりポマードの消費量は増えるだろう。

彼の生活費のどれだけをポマード代に持って行かれてしまうのか、そのときアーセナルが優しく「経費」として落としてあげてくれるか、そもそもそのポマード

はいくらなのか…心配なことはたくさんあるが、願わくはエメリという人物とポマードが多くのグーナーさんに愛されることを期待したい。

交代枠を使い切らず、睡眠采配をしでかしたとしても。



【了】

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